
技術情報
2025.04.16
医療機器の清浄度は、患者の安全を確保するための最も重要な要素の一つです。医療機器が患者に使用される際、機器に付着した汚染物質や微生物、異物が健康に重大な影響を与える可能性があるため、その管理は非常に重要です。清浄度の維持が適切に行われていない場合、機器は感染症やアレルギー反応、さらには治療の失敗を引き起こすリスクがあります。
このため、医療機器の清浄度は製造から使用、さらには廃棄に至るまで全工程にわたって厳格に管理されなければなりません。本稿では、医療機器の清浄度に関する基本的な概念、評価方法、管理手法、関連規格などについてお話しします。
1) 清浄度の定義
医療機器の清浄度とは、機器表面に存在する異物や汚染物質の程度を指し、これには微生物、化学物質、有機物、無機物、微粒子などが含まれます。これらの汚染物質が機器に残留していると、患者に対して以下のようなリスクが生じる可能性があります。
感染症のリスク: 機器に付着した細菌、ウイルス、真菌などが患者の体内に侵入し、感染症を引き起こす可能性があります。
アレルギー反応や炎症反応: 異物が体内に入ることによって、免疫系が反応し、アレルギーや炎症反応が引き起こされることがあります。
機能不全: 異物や残留物が医療機器の正常な機能を阻害することがあり、治療の失敗や患者に対する負担を増大させる恐れがあります。
これらのリスクを防ぐためには、医療機器の製造過程で高い清浄度が維持される必要があります。
2) 医療機器における清浄度管理の意義
医療機器は、患者の体内に挿入されたり、血液や体液と接触することが多いため、汚染物質が入ると、非常に深刻な問題を引き起こす可能性があります。例えば、心臓のバイパス手術で使用されるカテーテルや、外科手術で使用される手術器具、体内に埋め込まれるインプラントなどは、すべて微細な汚染物が病気や感染症を引き起こす可能性があり、清浄度が徹底的に管理されるべきです。
そのため、医療機器の清浄度は、製造から出荷、さらに使用に至るまで一貫した管理が求められます。清浄度管理が不十分であれば、感染症のリスクを高め、治療の信頼性を低下させることになりかねません。
医療機器の清浄度は、製造過程や最終検査で厳密に評価されます。清浄度を評価するためには、異物や汚染物質の種類と量を正確に測定する必要があります。以下に、医療機器の清浄度を評価する主な方法を紹介します。
1) 微粒子測定
医療機器の表面や内部には、製造工程中に発生した微粒子が付着することがあります。これらの微粒子は、機器の機能に影響を与えることがあり、特に血液などの体液と接触する機器では感染症のリスクを引き起こす可能性があります。微粒子の測定は、顕微鏡や自動粒子計数器を使用して行います。これにより、粒子の大きさや数を定量的に評価することができます。
2) 有機物残留物の測定
製造過程で使用された潤滑油や洗浄剤、溶剤などの有機物が機器表面に残留することがあります。これらの有機物が患者に対して有害であるため、残留物の測定が行われます。有機残留物の測定方法には、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)やGC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析法)などがあります。これらの手法を使用することで、製品表面に残った有機物を特定し、その量を測定することができます。
3) 無機物の測定
医療機器の製造過程で使用された金属や塩類などの無機物も汚染物質として問題になります。特に金属片や酸化物が残留している場合、患者にとって有害な影響を及ぼすことがあります。無機物の測定には、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)やSEM-EDS(走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分析)が使用されます。これにより、表面の無機物の種類や量を特定することができます。
4) 微生物検査
製造過程で微生物が医療機器に付着することがあります。特に、滅菌が必要な医療機器や体内に挿入されるデバイスでは、微生物の管理が非常に重要です。微生物検査は、培養法やPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などを使用して行われ、機器に付着した細菌やウイルス、真菌の種類と数を特定します。これにより、清浄度が基準を満たしているかどうかを確認します。
医療機器の清浄度は、製造工程の各段階で厳格に管理される必要があります。以下は、医療機器の製造における清浄度管理プロセスの一般的な流れです。
1) 製造環境の管理
医療機器は、クリーンルームと呼ばれる高い清浄度が保たれた環境で製造されます。クリーンルームでは、外部からの汚染物質の侵入を防ぐため、空気中の微粒子数や温度、湿度を厳密に制御します。また、製造作業を行う作業者も清潔な作業服を着用し、機器と接触する際には手袋やマスクを着用することが求められます。
2) 洗浄工程
製造工程で使用される金属やプラスチック部品には、加工中に微細な汚染物質が付着することがあります。これらの異物を取り除くために、超音波洗浄や有機溶剤洗浄が行われます。洗浄後は、残留物が残らないように純水リンスを行い、最終的に乾燥工程に進みます。
3) 滅菌工程
医療機器には、滅菌が必要な製品が多くあります。滅菌方法には、エチレンオキサイド滅菌やガンマ線滅菌、オートクレーブ滅菌(高温蒸気滅菌)などがあります。これらの方法により、微生物を確実に除去し、医療機器が無菌状態で患者に使用できるようにします。
4) 最終検査
製造工程が終了した後、最終的な清浄度検査が行われます。この検査には、微粒子の数や有機物、無機物の残留量、微生物の数を測定する方法が含まれます。これらの検査に合格した製品のみが出荷され、医療機器として使用されることが許可されます。
医療機器の清浄度管理は、国際的な規格に基づいて行われます。代表的な規格には以下があります。
ISO 10993: 医療機器の生物学的評価に関する規格。これには、清浄度に関連する基準が含まれ、機器の化学的、物理的な安全性が評価されます。
ISO 11737: 医療機器の微生物学的清浄度に関する規格。微生物の評価方法や測定基準が示されています。
ISO 13485: 医療機器の品質管理システムに関する規格で、製造工程全体の清浄度を管理するための基準が定められています。
ISO 19227: インプラントデバイスの清浄度評価に関する規格で、特に外科手術で使用される機器に適用されます
医療機器の清浄度管理は、患者の安全を守るための重要なプロセスです。製造から使用に至るまで、清浄度を維持するためには、厳格な管理と評価が求められます。今後、技術の進展とともに、より効率的で確かな清浄度管理の実現が期待されています。
高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―